■海水魚の取り扱い、運搬 

●水から出さないで移動させる

 網で捕った魚を適当にキープ容器や運搬容器に移して運ぶと、特定の魚は高確率で死に、それほど弱くない魚も死亡の恐れがあります。手で触っても同様で、よく死滅回遊魚で手に乗せている画像がありますが真似しないのが無難です(だいたいニザダイの仲間は尾にトゲ、ヤッコの仲間は鰓蓋にトゲがあるので私は触る気がありません。毒のトゲがあるミノカサゴはどうするんでしょう)。移動は以下のように行うのが理想です。

魚を捕まえたら水から出さず、逃げない程度に網の縁を水から出して、小さいタッパー等を使い魚が水に入ったまま移動させる
・移動先に出すときにも流し込むのではなく、移動中の魚が入っている容器を水に沈めてそっと横や下に向け、出す。横向きだと魚が容器に留まろうとすることが多いので注意

 魚に触っていいことはありません。横から撮影するなら観察ケースを使いましょう。毒がなくても多くの魚は顔、鰓蓋、鰭などが尖っています。魚を小さい容器に入れていると、飛び出して岩に落ちたり逃げられたりする恐れがあるので、網などで蓋をして予防しましょう(トゲトゲした部位のない種なら手も可能)。エビも触ると弱りやすく、腹部の力で逃げやすいので、魚と同様に移動します。危険性がなければカニ、ヤドカリ、殻のある貝類は手でつかんで移動しても構いません。

●キープ中の生き物を忘れずに

 生き物の生け簀に小型のプラケースやタッパーを使う場合、ときどき水を換える必要があります。日中は適当な場所に置くとすぐ水温が上がってしまい、水温が高いほど酸欠になりやすいです。生け簀は日陰や水が流れている場所、十分大きいかつ逃げられても困らない潮溜まりに置きましょう。ミニフィッシュハウスという小型の隔離ケースに捕まえた生き物を入れ、大きめの潮溜まりに入れておいたこともありますが、うまく使えませんでした。水換えの必要がないのは強みですが、魚等がいると水から出せない上に口が小さい等リスクも大きいです。

●採集地から運搬する

 もっと長い時間を輸送する場合(1時間以上?)、酸素を出す石、電池式エアポンプ、パッキングのどれかで対策をしないと危険です。酸素を出す石は簡単に使えますが、消耗品です。エアポンプは一度買えば長い間使えますが、ふたに隙間ができるのが辛く、音が大きいので公共交通で使いにくいです。ふたができるバケツと使って、車に入れると強力です。酸素石もエアポンプも運搬容器に物を入れるわけなので、魚が当たって死ぬ恐れがあります。また、クーラーボックスやタッパーの壁に何度も当たって死にやすい魚もいます。この問題をクリアできるのがパッキングです。

●パッキング
 パッキングには観賞魚用の厚いビニール袋、輪ゴム、酸素ボンベかストローが必要です。袋は、観賞魚を売っているお店で買えるでしょう。商品として置いていなくても、買えないか聞いてみればたいていは可能なようです。ただ、私は採集も購入もしているので、魚を買ったときの袋を水を捨てて中を拭き、残しています。パッキングの方法は、主にゴムの縛り方が動画で見ないとわからないと思うので、探してみてください。水と生き物の層、空気層、縛る部分がそれぞれ袋の3分の1を占めるといいようです。水を半分近く入れて、残りの半分をそれぞれ空気層、縛る部分にします。この空気ですが、郵送する場合は酸素ボンベでないといけないと思いますが、移動開始日に帰宅できるなら空気でいいでしょう。このとき自転車のタイヤなどに使用するハンドポンプが使える・・・と思いましたが、空気を出すと臭いがあり、不安で使っていません。代わりにストローで息を吹き込んでいます(和歌山県立自然博物館で教えていただきました)。呼気は空気より二酸化炭素が多いですが、酸素も十分に含まれています。
 パッキングの欠点は、一度封をすると開けるのが困難なことです。ハサミがないと開けられないと思います(私が縛ったものなら比較的ゆるいせいか、ハサミなしで開けられる場合があります)。カニが他の生き物を食べる等して、運搬中に水が汚れると悲惨です。あとは一応、袋の揺れが少ないと酸素があまり水中に溶け込みません。パッキングする生き物は傷に弱そうな魚にして、あとは酸素石やエアポンプで運ぶというように工夫して、あらかじめ安全な組み合わせで運搬するようにしましょう。

●酸素を出す石は要注意(2017年6月追記)
 酸素石は生き物の入った水に入れるだけで使え、一見手軽です。しかし、2017年の春季にこれを使って持ち帰りに失敗することが相次ぎました。それまでちゃんと持ち帰れていたのに魚の種類によっては使えないのかと思いましたが、原因はすぐわかりました。換えの水を用意して、水換えをしていると持ち帰れたのです。
 酸素石が酸素を出す過程で水酸化カルシウムが発生しますが、これは水をアルカリ性に傾ける性質があり、水質が急に変わることになります。それは前から知っていましたが、持ち物の都合で換えの水を用意できなかった場合に魚が死ぬことがあったわけです(現在カニ、ヤドカリが死亡したことはありません)。水量が多いか、持ち帰る途中で水換えをすれば酸素石はちゃんと使えるのでしょう。また、水換えをしていなくても生還した場合もあります。


 こうして生き物を入れたタッパーや袋等を、水温変化を避けたり暗い環境に置いたりできるクーラーボックスに入れて持ち帰りましょう。パッキング以外で持ち帰る場合は、採集地できれいな換えの水をとっておくと水換えが必要そうな場合に有効です(重要!)。寒い時期以外は保冷剤が必要です。水温が低い時期に熱帯魚を捕った経験がありませんが、加温が必要だと思います。

●ホテルで生き物を活かす場合

 2日以上の採集で、帰る日の前に捕った生き物をホテルで活かす場合、エアポンプを使うのがよいです。携帯式ではなく通常のプラグを挿すエアポンプです。携帯式が有効な場面と思っていましたが、あまりに音がうるさく眠れませんでした。旅館やゲストハウスでなくホテルならコンセントがあると思うので、通常タイプを持参しましょう。くれぐれも生き物が脱走したり水がこぼれたりしないよう注意です。これでも眠れない人は酸素石を使うしかないでしょうか。

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