■ボラ飼育のすすめ

水面の油膜除去には、器具を使うかボラの仲間を飼育するのが有効です。


 近海魚のほとんど入荷しない海水魚ショップでも、餌用の小さいボラを入荷することがよくあります。通常は60cm以上に成長する普通のボラ;真ボラです。これには裏の利用法があり、よく売られている魚を飼育しているのに場違いなようにボラを入れている人も見られます。ここでは、ボラの仲間が水槽にもたらす「作用」と、種類を判別する重要性、水槽に入れる欠点を説明します。


              ■ボラの仲間の作用

●水面の油膜を吸う 代替手段:手作業、市販の器具

 これがボラの最大の強みです。水槽の水面には、餌中の油分などから油膜が発生します。これは見た目が汚く、水面からの酸素溶け込みが阻害され、飼育者のちょっとした悩みとなっています(私は油膜に悩んだことがないので、ちょっとじゃない可能性も)。除去するには市販の道具を使うか、ボラを飼育するのがよいです。ボラが餌のない水面をゴクゴク吸っていることがよくありますが、これで油膜取りになります。コブヒトデが油膜を吸うという情報もありますが、少量だそうです。

●コケ取り 代替手段:ニザダイ、ヤエヤマギンポ、アシナガモエビ、トゲアシガニ、マガキガイ・アワビなどの巻き貝ほか

 水槽の「コケ」というのは正しくは「藻」ですが、便宜的にコケと呼ばれます。真ボラの場合主食は藻類で、水槽壁のコケも首を振って取ります。ボラがおらず壁がぎっしり茶色くなった水槽に真ボラを入れたところ、みるみる減っていったことがあります。私は試したことがありませんが、コケ取り生物はどのコケも食べるものは少なく、巻き貝が最も強力なようです。アシナガモエビは冬の近海でしか見られないながら、便利で強力らしいです。

●砂撹拌、残餌処理 代替手段:マガキガイ、ヤドカリ、オサガニ、一部ハゼほか

 砂を敷いていると濾過バクテリアが住み着いたり、一部の生物が潜る一方、下が嫌気環境になって有機物の腐敗などの害が生じるリスクもあります。この危険を防ぐため砂を適度にかき混ぜる生物がよく飼育されます。こうした生き物は、通常の魚が反応しない底に落ちた餌も食べます。ボラも砂を吸って吐き、中の微小藻類や有機物を食べる性質があります。また、小さい餌ならたいていは食べ、常に餌を食べようとしますから落ちた餌の処理にもなります。砂粒が大きいとあまり吸い込めませんが、表面をなめとります。種類と個体によっては、他のボラにまとわりついて巻き上がった餌を盗むように食べるという、ズルっぽい行動が見られることがあります。

              ■ボラの判別の重要性


「こうした作用があるならボラを水槽に入れようかな・・・でもボラって巨大になるでしょ?」


いいえ、小さい種類もいます。


 ボラの仲間は「河口のアレ」では終わりません。日本に1種でも2種でもなく、16種います。その中でたまたま身近な真ボラとメナダは60cm以上になりますが、他の種類はそこまで大きくありません。次に大きなフウライボラが50cmです。その次がタイワンメナダで40cmのようですが、飼育下での成長が遅いです。真ボラ、メナダの他に本土で繁殖しているコボラ、セスジボラは30cmで、これならなんとか終生飼育できるでしょう。

 大きさの問題がクリアできると思ったら別の問題があります。ボラの仲間は区別が易しくないのです。しかもどの種類でもよく働くわけではないため、油膜取り等に利用できる小さい種類を見つけ出すには、各種の判別が重要です。日本産種で唯一明瞭なカラーのあるオニボラは、前述の作用があまりないです。他の種類には種ごとの色彩があまりありません。次に区別しやすいのは、変顔で小さい時は白黒の模様があるワニグチボラですが、こちらはもっと働きません。真ボラは胸鰭根本に暗色~青色の斑があるので区別しやすく、その形態をよく覚えれば他の種類に気づくことができます。私の知っている中で、手近でよく働くボラは真ボラ、コボラ、セスジボラで、区別しやすい部類です。南日本ならタイワンメナダも加わりますが、特徴を説明しにくいです。私は各種の写真や解説を見て自分なりの区別法を編み出しましたが、けっこう間違えました(特定の種が欲しいあまり変な思考をすることも)。その区別法は飼育記録から各種の解説を参照ください。ここでは各種の大きさと働きを比較します。



・メナダ以外は熱帯にも生息し、西表島でも真ボラが見られます(某図鑑で真ボラをナガレフウライボラと称している)
・日本では西表島のみで見られる淡水性のナガレフウライボラ、同じく?カワボラ、日本では小笠原諸島のみで見られるクチボソボラは表から除外しました
1種1匹しか水槽にいないと本来の働きをしない場合があります

※メナダのサイズは図鑑でよく1mとされますが、約60cmまでしか情報が見つからないため、これでも大型だと思っています

 表のうち関東・・・という名の千葉、神奈川で見られるのが真ボラ、メナダ、セスジボラ、コボラ、フウライボラ、ナンヨウボラ、ワニグチボラです。静岡県でタイワンメナダ、和歌山県まで行けばオニボラが追加されます。カマヒレボラ、モンナシボラは三重県南部から加わりますが、珍しい上に区別しにくいです。南西諸島や小笠原諸島限定の種類もいて、アンピンボラは奄美大島以南、ヒルギメナダは石垣島以南に分布します。ただし、調査不足なだけで関東でもタイワンメナダ等の種類はいるのではないかと思っています。昔はいなかったとしても近年出現しているかもしれません。ちなみにボラの仲間は河口に多く汽水で生きられるものが多いですが、知っている限りフウライボラとワニグチボラは汽水では生きられません。

                     
       区別が易しくないといっても、この2匹が別種なのはわかるでしょう?分からなくても実物を見ればもっとわかります・・・

            ■ボラの飼育には欠点もあります

●餌をやった分食べる

 ボラの仲間はたいていの餌を食べ、水中に浮いている物はとりあえず一回食べるくらいです。そしていくらやっても必死に食べようとするため、他の魚に餌が行き渡りにくくなる恐れがあります。動きが遅かったり弱気な魚はろくに食べられません。混泳を避けられない場合、問題ない範囲で餌を一気に水槽に入れると対策になります。またボラは大きい粒餌をなかなか食べられないので、それを食べられる魚は比較的安心です。ボラの作用が少ないオニボラ、ワニグチボラは、ボラの中では大きい餌を食べられるという特徴もあります。

●複数飼育しないと慣れにくい

 ボラの仲間は、多かれ少なかれ群れで暮らします。水槽に1匹しかいないと慣れにくく、特に初期は餌を食べにくいです。表の下にも記しましたが、真ボラ5匹+フウライボラ1匹というように、ある種類が1匹しかいないと本来の働きをしない場合があります。魚の群れ効果が出るのは3、4匹からだと思います。この数を飼育すると水槽の生物量がそれなりに増えるという問題があります。ただし、1匹で問題なく飼育していそうな人も見られます。

●活動中いつも動き、よく水しぶきを上げ、餌が欲しいと激しく寄ってくる

 ボラの動きに関わる欠点をまとめました。河口の真ボラを見るといつも動いていますが、飼育したことのある他7種類もボラ特有のこの動きをしています。移動しないのは寝ている時や緊急時くらいです。退屈はしませんが、落ち着きがなく嫌う人がいます。水面近くにいることが多いのもボラの一般的な性質ですが、よく急に動いて水しぶきを上げ、水槽外が濡れたり驚かされたりします。それから私は好きなのですが、餌が欲しいと水槽前面に寄って激しく動くため、気持ち悪いかもしれません。さらにフウライボラやワニグチボラは餌の時間の度にジャンプしてアピールすることがあり、怖いかもしれません。

●水槽外に飛び出しやすい

 どの魚も水槽外に飛び出す可能性があります。飛び出しは原因がわからないことも多く、元気な魚も死ぬ最ももったいない死因だと思います。大小の真ボラが野外でよくはねているように、ボラの仲間は飛び出しやすいといわれています。ある時は水槽に網を入れただけで、ある時は網に入れた瞬間にジャンプします。壁前で動きが止まったと思ったら、急加速してジャンプすることもあります。ジャンプ力はすごいもので、野外で3cm足らずのタイワンメナダが20~30cmの高さまでジャンプするのを見ています。水槽上面にねずみ返し(フリンジ)や十分な蓋がないとガンガン床に落ちるでしょう。経験上はぶつかっても何もなかったようにしていますが、大きくなるとどうなるかわかりません。もしくはアクリル水槽とガラス水槽で異なるかもしれません。水深がなければジャンプしにくいですが油断は禁物です。経験上真ボラが特に飛び出しやすく、他の種類は網に入れるとき以外は問題ないようです。水槽奥などの落ちたら詰む場所にジャンプしないようにし、もし蓋の上や床に落ちた時は小容器に入れて救出しましょう。手を濡らしても触るのは危険です。



 夏~秋に死滅回遊魚を探している時、5cm以下ほどの小さいボラを捕れば真ボラじゃないはずです(冬は真ボラが現れます)。そこからワニグチボラ、オニボラ、フウライボラを除けば油膜を吸う種類と考えられます。また、初夏程度でもコボラ、セスジボラはいるようです。真ボラより海水水槽で利用するのに適する種類を探してみましょう!役に立てる以外にも、あまり小さくありませんが丈夫で初心者向きですし、多くの種類を集めて動きの違いを確かめたり、気に入った種類を群泳させる楽しみもあります。また一つ海水魚採集・飼育の世界が広がることを祈ります。

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